静岡県浜松市の郊外に建つ整形外科クリニックである。
敷地は幹線道路の交差点に面した約3000㎡の元農地。市街化調整区域に指定された一帯の地形は平坦で、周辺には畑や緑地が多く残る。郊外に新規開業する診療所として、デイケアに対応する約200㎡のリハビリ室、MRI・レントゲン・骨密度の検査諸室、60台分の外来駐車場、デイケア送迎車用駐車場の整備が求められた。
我々は先ず、クリニックを平屋とし交差点に寄せて配置することで、往来するドライバーや信号待ちの人々に認知されやすくするとともに、隣接農地への日照を確保することを考えた。駐車場の出入口が交差点から離れることで、アクセスも容易になる。
敷地が接する道路は、子供たちの通学路でもある。将来的に幹線道路沿いに開発が進めば、慣れ親しんだ街の風景は様変わりしていく。そこで、かつて農地であったという「緑の記憶」を継承し、緑を街と共有するため、交差点に面したエリアを緑地帯とした。
ゆるやかな起伏を設けた緑地帯は、内外の視線を適度に遮るバッファーゾーンでもあり、公園のような景観・オープンスペースをつくりだしている。
リハビリ室や診察室など大小ある諸室に適した天井高を考慮し、片流れの大きな一枚屋根を架けた。天井の高い側に患者エリアを、低い側に診察エリアを配置しており、横道に面した南側の軒先は、沿道の民家よりも低くなっている。大きく張り出した軒は、送迎レーンと歩行者通路の屋根を兼ね、大屋根の下に人々が集う。
来院中、患者の時間の大半は、診察・治療・会計の順番を「待つ」ことに費やされる。しかも、整形外科では物理療法、運動療法による治療やリハビリを伴うため、滞在時間が長くなる。リハビリのために通院しなければならないこともあり、治療には患者自身の能動的な気持ちが必要不可欠とされる。
そこで、患者が少しでも居心地よく過ごせるように、長時間滞在する待合室とリハビリ室に連続して、落葉樹・常緑樹を織り交ぜた庭を配置した。庭に面した大開口は、すべて外周面から奥まった位置に設けている。庭を回廊と軒で囲い込むことで中庭的な設えとなり、内部と外部に適度な距離感がうまれている。木立によって外部からの視線もゆるやかに遮られ、大屋根の下、明るく開放感がありながらも、四季折々に変化する木々に囲まれた静謐な空間となっている。
低く抑えた屋根の開口部から頭を突き出すシンボルツリーは、幹線道路の並木と同じカツラの木である。ハート型の葉が美しく黄葉し、甘い香りが広がるこの木が、人々の心を癒す存在となれば幸いである。
今後、時を経て木々が育ち、地域に愛される木漏れ日のクリニックとなることを願っている。